地方の中小企業が未来をつなぐために―「事業承継」の準備と実行<事業承継ブログ 第1回>
- 新井 庸支

- 10月14日
- 読了時間: 4分

日本の中小企業の多くは、創業者や家族経営で長年地域を支え続けてきました。しかし、経営者の高齢化と後継者不足が進むなか、「事業承継」はもはや一部の企業の話ではなく、すべての企業が向き合うべき経営課題です。 私自身、全国各地の中小民間企業の事業成長支援や、中小企業向けの行政機関でのアドバイザーとしても多くの企業に関わるなかで、「事業承継の準備が早い企業ほど、成長と未来を描ける」ことを強く感じています。
1. 事業承継は「会社を残すための成長戦略」
事業承継というと「後継者に会社を譲る話」と思われがちですが、実際には経営のバトンタッチだけでなく、会社の成長戦略そのものです。 後継者がいれば、その人材を中心に会社を成長させる。後継者がいなければ、売却(M&A)という形で次の担い手に事業を託す。どちらも「会社を残す」という目的は同じです。
重要なのは、「急に決断する」ことではなく、5年〜10年スパンで準備を始めること。事業承継は“出口戦略”ではなく“未来戦略”です。
2. 承継・売却を見据えた準備の第一歩
承継準備の第一歩は、後継者探しではありません。 まず経営者が「自社の強みと弱み」「将来の方向性」「経営者として何を残したいのか」を明確にすることです。
✅ 自社のビジョン・ミッションを整理する
✅ 事業・財務・人材・知的資産などを“見える化”する
✅ 経営者が現場から少しずつ離れ、権限委譲を進める
✅ 後継者(社内・社外・M&A)を探すための条件を明確にする
こうした整理ができている企業は、承継も売却もスムーズに進みます。逆に、これができていない企業は、どれだけ良い後継者候補がいても話が前に進みません。
3. 承継パターンは大きく2つ
A. 親族・社内承継
もっとも多いのが、創業家や役員・社員など社内の人材に引き継ぐパターンです。 社風やビジョンを維持しやすい一方で、経営者教育や資金調達(株式の買取など)に時間がかかることがあります。 → 早期から権限委譲・資金計画を立てることが鍵になります。
B. M&A(第三者承継)
後継者がいない場合でも、M&Aという選択肢があります。 買い手企業にとっては地域の販路や技術、人材が魅力になりやすく、売り手企業にとっては事業を守る有力な手段になります。 → 3〜5年単位で企業価値を高める取り組み(財務改善・収益構造改革)が必要です。
4. 実行フェーズで失敗しないために
事業承継の実行段階では、次の点がポイントになります。
✅ 経営権と所有権(株式)の移転を計画的に行う
✅ 取引先・従業員との信頼関係を維持する
✅ 税制・資金調達の支援策を活用する
✅ 専門家(税理士・弁護士・M&Aアドバイザーなど)とチームを組む
特に地方企業では、「取引先との信頼関係」「従業員の安心感」が大きな鍵になります。トップダウンではなく、社内外への丁寧な説明と巻き込みが不可欠です。
なお私はコンサルタントとして中小企業の経営全体の支援を日々行っていますが、事業承継アドバイザー資格保有者でもあります。中小企業の事業承継とは会社だけでなく、経営者個人や家族の生活とも密接に関わってくる問題でもあります。まずはご相談窓口としてお話いただく形もお勧めします。
5. 経営者が早く準備を始めるメリット
✅ 後継者をじっくり育成できる
✅ 売却時に企業価値を最大化できる
✅ 税金・資金面での優遇措置を活用できる
✅ 「会社を残す」という経営者の想いを実現できる
中小企業の事業承継で失敗するケースの多くは、「準備不足」が原因です。逆に、早くから準備した企業は、承継・売却のどちらを選んでも会社を成長させています。
6. まとめ:事業承継は“出口”ではなく“未来の始まり”
事業承継は経営の“終わり”ではなく、“次の時代をつなぐ始まり”です。 経営者が早く準備を始めることで、選択肢が広がり、会社と社員、地域の未来を守ることができます。
全国各地で中小企業の支援をしてきた経験から断言できるのは、「事業承継に早すぎるということはない」ということです。 今日が、未来への第一歩です。
株式会社ホワイトナイト
コンサルタント(事業承継アドバイザー資格保有者)
新井 庸支



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