コーズマーケティング&コーズリレイテッドマーケティング事例「うなぎ食べ継ぐプロジェクト」
こんにちは。マーケティング・経営コンサルタントの新井です。
私は中小企業に特化し、全国各地の中小企業様に、マーケティングの戦略から実行を中心に、経営面まで、経営者の抱える課題全般の解決のサポートをさせていだいています。これまで200社以上のコンサルをさせていただいており、定めたゴールに対する達成度は90%以上を継続しています。
今日のテーマは「コーズマーケティング&コーズリレイテッドマーケティング事例「うなぎ食べ継ぐプロジェクト」」です。
株式会社エーゼログループ(本社:岡山県西粟倉村:以下、エーゼロ)が主導し始めている「うなぎ食べ継ぐプロジェクト(うなつぐプロジェクト)」。
同社の取り組みがマーケティング的にも興味深いのでお伝えします。
今回のテーマは、コーズマーケティング&コーズリレイテッドマーケティング事例「うなぎ食べ継ぐプロジェクト」です。
コーズマーケティングとコーズリレイテッドマーケティングの違いとは?
コーズマーケティングとコーズリレイテッドマーケティング。言葉は似ていますが、どんな違いがあるか整理します。
コーズマーケティングは企業が特定の社会課題や慈善活動を支援し、その取り組みを通じて企業イメージの向上や顧客との関係強化を図る手法です。
コーズリレイテッドマーケティングは、商品やサービスの売上の一部を特定の社会課題や慈善団体に寄付する手法です。
コーズマーケティングが企業の売上とは直接的に関係なく、より広範な社会貢献活動を含むのに対し、コーズリレイテッドマーケティングは売上に応じて寄付が行われる形です。方法のちがはありますが、両手法とも企業の社会的責任(CSR)を果たしながら、ブランド価値の向上を目指すという点は共通しています。
地域活性化で日本中から注目される企業:株式会社エーゼログループ
株式会社エーゼログループ本社(以下、エーゼロ)は地域活性化という点で、日本中の行政や地域の自然資本を活かした事業を手がける企業から注目されている企業です。
エーゼロのある西粟倉村は、人口1337人(2024年3月31日時点)。山々に囲まれた自然あふれる村です。数年前前までは、日本の他の地域と同様、高齢化と人口減少が大きな課題でした。そこにエーゼロを中心とした企業が来て、人が来て、街が徐々に活性化している状況にあり、周辺地域は転出傾向が続いているものの、西粟倉村は転入増に変わっています。
エーゼロのミッションは「未来の里山をつくる」というもので、西粟倉の他、滋賀県高島市、北海道厚真町、鹿児島県錦江町でも、地域資源を活かした事業を行っています。西粟倉に関していえば、木材事業に始まり、鹿を捕獲したジビエ(加工・販売)、養鰻・加工販売など自然資本を活かす取り組みを行なっています。養鰻については、過疎化によって廃校となっていた小学校の体育館を活用し、養鰻場を設けました。養鰻は水温を温めておく必要があるのですが、その水温を温めるために、間伐材を利活用する形をとっています。また、養鰻の過程で出ものを肥料にして、体育館外にあるビニールハウスで利用し、農作物を栽培しています。成長した鰻はもともと給食室であった場所で、蒲焼や白焼にされてネット販売されたり、活鰻として鰻屋に販売されたりしています。
その他、宿泊事業、福祉事業など地域に根ざした活動をしている企業です。私は代表の牧さんとご縁をいただき、養鰻場建設前からお付き合いさせていただいておりますが、未来の里山を作るという目標に向かって、事業領域や展開エリアを増やし、一歩一歩事業を地に足のついた形で事業を拡大されていることに感銘を受けています。地域活性化や自然保護などに関わる企業や行政の方は、西粟倉村を一度訪れることをお勧めします。
絶滅危惧種であるニホンウナギを食べる、守る、増やす挑戦
絶滅危惧種であるニホンウナギを食べる、守る、増やす挑戦がうなぎ食べ継ぐプロジェクト(略称:うなつぐプロジェクト)です。うなつぐプロジェクトとは、多くの日本人が好きなうなぎを「食べること」と「守ること」の両立を目指したプロジェクトです。簡単に言えば、未来もうなぎを食べられる状況を作るために、さまざまな方々が協力して、うなぎを増やしていきましょうというプロジェクトです。
具体的には、エーゼロの他、うなぎの研究者、社会課題解決のプロ、鰻屋、一般の方々などが立場を超えて支援することで成り立ちます。協力鰻屋である八重洲 鰻はし本で、プロジェクト対象の鰻を召し上がっていただいたり、エーゼロがあらたに立ち上げた襷屋で該当商品を購入していただいたり、すると金額のうち10%がプロジェクトに使われます。
プロジェクトへ当てられた資金は、しらすうなぎ(稚魚)を増やすための調査研究や、環境整備などに使われます。絶滅危惧種に指定されているニホンウナギですが、その大きな原因は天然鰻の乱獲です。養殖を食べれば良いではないかという声もありでそうが、徐々に研究は進んでいるものの、基本的には養殖うなぎも、外部に存在するしらすうなぎを仕入れ、養鰻場で育てる形です。つまり、自然界におけるうなぎを増やすことがとても大事なことです。
なお、人によっては、食べなければ良いのではないかという声もあるかもしれません。いろいろな意見があって良いと思います。ただ、できれば年に何回かはうなぎを食べたい日本人も多いのではないかと思います。そのため”食べる”か”食べない”かではなく、どうやったらうなぎを守りながら食べる環境を維持できるのかというという第3のアプローチをプロジェクトは目指しているのです。
プロジェクトへの具体的な関わり方
一般の方も携わることができる本プロジェクト。具体的な関わり方としては3つです。
一つ目はうなつぐプロジェクトの加盟店での購入や飲食すると、代金の10%がうなつぐプロジェクトに使われるというものです。エーゼロのECの他、プロジェクトに賛同する、鰻の名店・老舗、八重洲 鰻 はし本さんでは特別メニューが出されます。通常より大きな鰻のお重なのですが、大きな鰻をわけあって食べてほしいという、みんなで未来を作ろうというシェアの気持ちが込められています。
二つ目はプロジェクトメンバー(うなつぐ会員)になることです。支援することで、うなつぐプロジェクトの年次報告書が送られます。
三つ目は「見る」ということです。うなつぐプロジェクトのサイトにアクセスして、プロジェクトを認知・理解してくれれば良いというものです。アクセス数に応じて、エーゼロがしらすうなぎを放流した場所へ石を投げ入れます(一石を投じます)。これは単なるダジャレではなく、ウナギの生息環境を整備する上でとても大きな効果がある、しっかりしたものです。この三つ目については、お金ではなく、注目いただき、理解を深めてもらうことがポイントです。
1や2についてはコーズマーケティングの手法として、比較的昔からあるパターンですが、3については、サイトにアクセスし、知ってもらうことが、支援になるという裾野の広げ方です。参加の仕方を選べるようにしているのは、賛同者を増やすために有効です。
最後に
20年近く前、アドボカシー、コーズリレイテッドマーケティングという言葉が日本でも聞かれるようになりました。最初にこの言葉が出てきた頃、私はメディアに出ることが多かったので、出版社から献本をいただきました。その後、言葉や考え方が徐々に浸透し、特にこの10年で人々の環境や社会課題に対する意識は高くなったように感じます。
自然環境保護をはじめとする社会貢献が大事なことであるということは、多くの人たちが気づいています。その一方、通常商品よりも高い価格で商品を買う人がどれだけいるかということはコーズマーケティング系の長年の課題でもあります。
思いはあるけれど、お金を拠出することは難しいという人が多いという事実は、事実として受け止めるべきでしょう。その一方で、どうやったらこのハードルをクリアしていけるのか考えることはやめてはいけないとも思います。楽しくできること、できることからやることなど、スモールステップの考え方も重要かもしれません。その意味では、今回のうな継ぐプロジェクトは、こうした課題に対しての新しい挑戦を含むものです。マーケティングに関わる人が注目するのはもちろんですが、一消費者としてサイトにアクセスし、理解を深めていくということも重要ではないかと思います。
今年の土曜丑の日、7月24日だけでなく8月5日も該当します。美味しい鰻をいただく際、エーゼロが手がける本プロジェクトにも心を寄せてもらえると、より良い未来につながるのではないかでしょうか。
八重洲 鰻はし本さん提供のリリース
襷屋
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